大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和33年(ラ)113号 決定

抗告人 長谷川昇治

主文

本件抗告を棄却する。

理由

抗告人は、「原決定を取り消す。更に相当の裁判を求める。」との決定を求め、その理由を別紙添付の抗告の理由と題する書面記載のとおり主張し、証拠として債権差押通知書(写)を提出した。

本件記録中の不動産競売申立書、根抵当権設定契約書(記録九丁)、約束手形(記録一二丁)、登記簿謄本(記録三八丁)によると、債権者丸幸商事株式会社は抗告人を債務者とし昭和三一年四月二日債務者所有の本件不動産を担保として債権極度額金五五万円、利息は金一〇〇円につき一日金四銭一厘、遅延損害金は金一〇〇円につき一日金八銭二厘とする根抵当権設定契約を締結し、同月二八日その登記をなしたこと、債権者は債務者に対し右契約に基き昭和三二年一月一日に金五〇万円を弁済期日を昭和三二年一月七日と定めて貸与したところ、債務者は期限を経過してもこれを支払わないから、債権者は債務者が右元金及び前記約定による利息及び損害金を支払わないことを原因として本件競売の申立をなすに至つたことが認められ、その後競売実施の結果昭和三三年二月二七日本件競落許可決定(競落価格金五六〇、八二〇円)がなされるに至つたこと記録に徴し明らかである。

しかして、債権差押通知書(写)によると、静岡税務署長は、本件競売申立債権者丸幸商事株式会社に対する法人税等の滞納額金一、八九九、〇四三円の滞納処分として、本件競落許可決定以前たる昭和三二年一二月六日前記抵当権ある債権中金四七五、〇〇〇円を差押え、この旨をその頃債務者に通知したことが認められる。国税徴収法第二三条の一は国税滞納処分により債権が差押えられ、債務者がその通知を受けたときは滞納処分費及び税金額を限度として国が法律上当然に債権者に代位する旨定められており、右債権差押の効力はその債権の従たる権利である抵当権にも及ぶこと明らかである。しかして右債権差押によつて国が当該債権の取立権を取得する反面滞納者は右債権の処分の制限を受けてその取立をなし得ないし、しかも債務者は滞納者に対する弁済を禁止されるから、もし抵当権ある債権が全額差押を受けた場合には、抵当債権者は競売を遂行する積極的な適格を喪失するに至るものと言わなければならないが、その差押が債権の一部にとどまる場合には、抵当債権者はいまだその適格を失うに至らないこと明らかである。そうすると前記認定のように本件抵当債権額は金五〇万円及びこれに対する利息、損害金に上つているのに、国の差押債権額は右金員に達しない金四七五、〇〇〇円にとどまることに徴すれば、本件競売申立債権者丸幸商事株式会社は競売遂行の適格を失わないこと明白であり、もとより本件抵当債権の主体に変動があつたとはいえない。よつて抗告人の主張は既にこの点において理由がない。

その他記録を精査するも、本件競落許可決定取消の事由となすに足る違法の点を認めることができないから、本件抗告を棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 二宮節二郎 奥野利一 大澤博)

(別紙)抗告の理由

一、相手方は抗告人に対する債権に基き、静岡地方裁判所に対し不動産競売手続の開始を求め、同庁昭和三十二年(ケ)第五八号事件として繋属、爾后数回に及ぶ競売期日を経由して、昭和三十三年二月二十日の競売期日に至り申立外、山本政徳が最高価競買の申出をなし、昭和三十三年二月二十七日同庁裁判官田島重徳による競落許可決定がなされた事実は、同事件記録により明かである。

二、然して、本件は昭和三十二年十二月六日静岡税務署長大蔵事務官柳原礼一の発した債権差押通知書によれば、相手方が昭和三十二年度法人税税額金百拾九万五千四百九拾円、加算税額金六拾弐万七千五百円、利子税金壱万弐千弐百八拾八円、遅滞加算税金参千七百六拾五円、合計金百八拾九万九千四拾参円の滞納金額を有するので、抗告人が負担する抵当権附債権の差押を為し、抗告人が直接、当該税務署へ支払うべき義務を発生せしめたから、その手続を該債権の主体に変動があつたとして続行すべきものではない。

三、右は民事訴訟法第六百七十二条第一号の抗告事由に該当すると思料するので本抗告に及んだ次第であります。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例